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東京地方裁判所 昭和32年(行モ)17号 決定

申立人 国

訴訟代理人 滝田薫

被申立人 中央労働委員会

主文

当裁判所が当庁昭和三二年(行モ)第一〇一九号緊急命令事件について、昭和三二年四月二五日大阪府知事に対してなした緊急命令は、同年一〇月一日以降これを取り消す。

理由

一  本件記録および昭和三二年(行モ)第一〇一九号緊急命令事件記録によれば、

(一)  広田政彦は米陸軍神戸補給廠沢の町モータープールに駐留軍労務者(自動車運転手)として勤務していたところ、昭和二九年四月三〇日国から解雇されたが、大阪府地方労働委員会(以下、地労委という。)に不当労働行為として救済の申立をしたところ、地労委は昭和三〇年一二月一六日国の機関としての大阪府知事に対し「(イ)広田を原職に復帰せしめること、(ロ)広田の解雇の日より復帰の日までの間、同人が受くべかりし賃金相当額を支払うこと」を内容とする救済命令を発し、大阪府知事の再審査申立も昭和三一年一一月七日中央労働委員会において棄却され、現在当庁に国を原告とする右棄却命令に対する取消訴訟が係属中であること

(二)  中央労働委員会は、昭和三二年一月二八日当庁に大阪府知事を相手方として労働委員会の命令に従うべき旨のいわゆる緊急命令の申立をし、当庁昭和三二年(行モ)第一〇一九号事件として係属し、当裁判所は昭和三二年四月二五日右事件について大阪府知事に対し「前記取消訴訟の判決確定に至るまで、右中央労働委員会の命令に従い、広田を原職に復帰させ、かつ、昭和三一年一一月七日以降原職復帰の日に至るまで毎月末日賃金の一部(広田の解雇当時における基本給と扶養手当の合計額の六割)の支払を命ずる」旨の緊急命令を発したこと

(三)  しかるに広田の解雇当時の勤務先である前記沢の町モータープールは、昭和三二年九月三〇日閉鎖廃止され、同所に使用されていた労務者は全員解雇となつたので、国は昭和三二年八月三〇日広田に対し基地廃止の日である同年九月三〇日をもつて予備的に解雇する旨の意思表示をしたこと

が認められる。

二  前記地労委の救済命令は、広田に対する昭和二九年四月三〇日附解雇に対するもので、該命令によつて設定された原職に復帰させる義務とは、広田をしてその解雇当時の職場である沢の町モータープールにおける同日現在の職務に復帰させる義務を意味し、一般的に駐留軍労務者としての同等の職に復帰させることを意味しているものではないと認められる。

従つて、地労委の救済命令が課した原職復帰の義務は、広田の解雇当時の基地が存在することが前提であつて、その基地が廃止になつた場合については、前記救済命令は何等言及していないものと思われる。

以上のとおりとすれば、広田の解雇当時の基地が廃止された以上、同人を原職に復帰させることは不能となつたので、使用、者のこの点に関する義務は消滅したものというべきである。

なお、前記救済命令中賃金の遡及支払の部分は、原職復帰が可能なのにかかわらず復職させないでいる期間の賃金の支払を命じたものと解されるので、前記救済命令は、基地廃止のため広田の原職復帰が不能となつた日以後の賃金については言及していないものと認められる。

三  以上のとおり、地労委の救済命令のいわば射程範囲外の事態である基地廃止があつた以上、大阪府知事が広田に対し右廃止、以後賃金の支払をしなくとも、右救済命令に違反するところがないといわざるを得ないので、当裁判所の緊急命令(この命令は、中央労働委員会の維持した地労委の救済命令の一部に従うべきことを命じたものである。)にも違反するところがないという外なく、結局前記モータープール基地廃止の翌日である昭和三二年一〇月一日以後は、右緊急命令中原職復帰の点は履行不能となり、金員支払部労は最早要求されず、従つて違反もあり得ないという事態となつたものというべきである。

四  労働組合法第二七条第七項が特に職権による緊急命令の取消へ変更を規定しているのは、緊急命令が継続的な法律関係を生ぜさせることが多いため、右命令が当初より違法な場合の外に、なお事情変更により右命令が不当、不要となる場合を予想し、かかる場合に裁判所に右命令を将来に向つて取り消すことを認めたものと考えられる。

従つて、前記説明のとおり、当裁判所のなした主文第一項の緊急命令は昭和三二年一〇月一日以降はこれを維持する必要がないから、労働組合法第二七条第七項により右命令を同日以降取り消すべきものである。

よつて、主文のとおり決定する。

昭和三二年一一月一四日

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

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